活動報告

活動報告

業績

(1) 就労による影響(専業主婦との比較)
専業主婦と就労女性の健康状態を比較すると、就労女性には「月経随伴症状」がより多く出現し、一方専業主婦では「特に問題がない」がより多く出現していた20)。
さらに、就労女性を昼間勤務のみと夜間勤務にも従事している女性とに分けて比較すると、夜間勤務の女性に「月経随伴症状」がより多く出現し、その中でも特に「月経痛」がより高頻度に出現していた20)。なお、この月経痛出現の原因は睡眠不足に由来するのではないかと推測している。
さらに、夜間勤務に従事することによりBody Mass Indexが上昇し肥満傾向になることも明らかにし13)、生活習慣病に対する配慮も必要と考えている。
就労女性は不正出血などの女性特有の症状が出現しても職場に気兼ねして受診を躊躇い、入院・手術の時期の決定にも職場の同僚や上司の影響を受けていた17、18)。また、職場の中間管理職はセクハラやパワハラと指摘されるのを恐れ、部下の女性の健康状態を十分に把握しているとは言い難い状態であった19)。
(2) 夜間勤務における光刺激と睡眠阻害が及ぼす影響
夜間勤務時に受ける光刺激により血中メラトニン濃度が減少し4)、この血中メラトニン濃度の変化は500ルクスの光刺激でも起こることを確認した5)。また、夜間勤務により睡眠が阻害され、血中プロラクチン濃度が減少することも明らかにした4、5)。
さらに、夜間の光刺激によって下垂体からのLHのパルス状分泌も影響を受け、本来なら夜間ではlow frequency & high amplitudeであるべきLHの分泌は光刺激によって昼間と同様のhigh frequency & low amplitudeに変化することを確認した4、9)。つまり、夜間の眠るべき時間帯に覚醒して光刺激を浴びることが、卵巣機能を抑制し不規則な月経周期や不正出血の出現につながっていると考えた1)。なお、近年夜間勤務に従事している女性に乳がんや結腸がんが多発しているのは、メラトニン濃度の変化が生体の免疫機能を低下させているのではないかと推測される。
(3) 夜間勤務が副腎皮質機能に及ぼす影響
副腎皮質から分泌されるコルチゾールは深夜2時に最低値を示し、朝8時に最高値を示す特有の日内リズムを有している12)。ところが、夜間勤務に従事することにより深夜2時の最低値はさらに下降し、朝8時の最高値も低下を示すことを明らかにした。
さらに夜間勤務によってコルチゾールの日内リズムの振幅が減少することも観察した23)。また、この変化は男性看護師には観察できず、女性看護師特有の変化であった12、23)。また、その変化は準夜勤務より深夜勤務の方が顕著であり、20歳代・30歳代・40歳代の女性で比較検討すると高齢になればなるほどその変化はより顕著であることも観察した24)。
さらに、唾液に含まれるコルチゾール濃度と血液に含まれるコルチゾール濃度の両者には相関関係を認め、唾液はコルチゾール濃度測定に有用な検体であり、血液中の濃度と同様に夜間勤務によりその濃度は影響を受けていた(会議録;日本内分泌学会雑誌88(1):341.2012)。
また、髪の毛に含まれるコルチゾール濃度を二交代勤務と三交代勤務に従事している看護師で比較検討すると、三交代勤務女性の毛髪のコルチゾール濃度は昼間勤務の女性のコルチゾール濃度と同様であり、一方2交代勤務女性の毛髪の濃度は三交代勤務に従事している女性や昼間勤務だけに従事している女性の濃度より有意に高値を示した27)。つまり、二交代勤務は三交代勤務に比較して、より非生理的な労働と考えられた。
(4) 夜間勤務が副腎髄質に及ぼす影響
昼間勤務・準夜勤務・深夜勤務を比較すると、夜間勤務になるにつれ尿中のドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン濃度は変化し、ドパミンが代謝されノルアドレナリンに、ノルアドレナリンは代謝されアドレナリンに変換され消費されていることを明らかとした23)。つまり、副腎髄質も副腎皮質とともに夜間勤務ではより多くの代謝活動を強いられていることが明らかになった。
(5) 労働者健康安全機構が保有する病職歴データからみた就労女性の特徴
(5-1) 月経過多や月経痛などの症状が出現する子宮筋腫や子宮内膜症では就労女性と専業主婦ではほぼ同年齢で手術を受けているものの、子宮頸がん0期でも浸潤子宮頸がんでも手術を受ける年齢は、就労女性の方が専業主婦より約1.5歳遅れて手術を受けていた16、18)。
(5-2) 就労女性では自然流産と稽留流産とが高率に発生し、一方、専業主婦では切迫早産と帝王切開術とが高率に発生していた。なお、前期破水と前置胎盤とでは専業主婦と就労女性との間に有意差を認めなかった25)。

業績論文

(1) 夜間労働婦人における月経異常
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
日本職業・災害医学会会誌. 38(5): 324-327. 1990
(2) 月経異常婦人におけるメラトニン測定の意義
宮内文久、中村康彦、沼文隆、加藤紘、南條和也、大塚恭一、佐々木透、米沢真佐子、塚田裕.
日本産科婦人科学会. 42(10): 1298-1304. 1990
(3) 夜間照明がメラトニン分泌に及ぼす影響
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
愛媛県医師会報. 636: 32-37. 1990
(4) 光刺激に対するメラトニン、LH、FSH、プロラクチンの動態
宮内文久、南條和也、加藤紘、佐々木透、米沢真佐子、塚田裕.
日本内分泌学会. 66(8): 737-746. 1996
(5) 持続的な光刺激に伴うメラトニンおよび下垂体ホルモン分泌の変化
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
日本産科婦人科学会雑誌. 43(5): 529-534. 1991
(6) 看護婦における夜間労働と不規則な月経周期との関係
宮内文久、南條和也、大塚恭一、小川澄江.
日本職業・災害医学会会誌. 39(6): 309-312. 1991
(7) 夜間勤務時のホルモン動態と月経異常
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
産業医学. 34(6): 545-550. 1992
(8) 夜間の光刺激および覚醒が血中メラトニン、プロラクチン、LH、FSH濃度に及ぼす影響
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
日本職業・災害医学会会誌. 44(7): 473-476. 1996
(9) LHパルスの日内変動
宮内文久、南條和也、大塚恭一.
日本産科婦人科学会中国四国合同地方部会雑誌. 46(1): 11-17. 1997
(10)三交替勤務が満足度や疲労感などの生活意欲に及ぼす影響
宮内文久.
日本職業・災害医学会会誌. 47(1): 63-68. 1999
(11)シンポジウム「女性クリニックの展望」女性の夜間勤務が内分泌環境に及ぼす影響
宮内文久.
日本職業・災害医学学会誌. 54(5): 231-233. 2006
(12)深夜・長時間労働が女性の内分泌環境に及ぼしている影響
宮内文久.
産業医学ジャーナル. 33(3): 40-46. 2010
(13)夜間労働時の血液中cortisol濃度およびcortisone濃度の変化と男女の性差
宮内文久、木村慶子、平野真理、矢本希夫、関原久彦、中西淑美、三好美映子.
産業ストレス研究. 19(3): 249-254. 2012
(14)女性看護師の夜間労働時の血液中コルチゾール濃度の変化とBMIの変化
宮内文久、木村慶子、平野真理、横田育代、矢本希夫、関原久彦、中西淑美.
日本職業・災害医学学会誌. 60(6): 348-352. 2012
(15)働く女性の健康管理
宮内文久、辰田仁美.
産業医学ジャーナル. 36(2); 9-12. 2013
(16)働く女性のヘルスサポート—労災疾病等13分野における性差
宮内文久.
産業医学ジャーナル. 35(1): 52—55. 2014
(17)就労が女性特有の疾患の手術時期におよぼす影響(労働者健康安全機構が有する病職歴データから)
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 64(6): 349—357. 2016
(18)就労女性が子宮筋腫の手術を受ける時に職場から受ける影響
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 65(5): 276—282. 2017
(19)産業保健スタッフに期待される「女性活躍」支援―自身の健康管理よりも職場への配慮が優先―働く女性の受診と治療を阻む要因を探る
宮内文久.
産業保健と看護. 9(6): 64—67. 2017
(20)女性特有の疾患に対する男性中間管理職と女性中間管理職の認識の差
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、 志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 65(6): 350—357. 2017
(21)子宮筋腫より見えてきた就労の影響
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、 志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 66(2): 129-136. 2017
(22)夜間勤務が月経痛へ及ぼす影響
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、 志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 66(3): 221-226. 2018
(23)労災病院に勤務する女性の健康状態の2年間の変化
宮内文久、大角尚子、香川秀之、星野寛美、松江陽一、中山昌樹、藤原多子、 志岐保彦、伊藤公彦、辰田仁美、東矢俊光.
日本職業・災害医学会会誌. 66(6): 486-490. 2018
(24)夜間交代勤務時の副腎皮質機能における性差
宮内文久.
産業保健21. 90: 26. 2019
(25)夜間交代制勤務
宮内文久.
産業医学レビュー. 30(3): 207-217. 2019
(26)産業保健からみた女性特有の疾患
宮内文久.
愛媛県産婦人科医会報. 55: 9-16. 2019
(27)愛媛労災病院での治療と就労の両立支援に対するこれまでの取り組み
宮内文久、神野結花、大山淳子、渡部夏子、大沢由香、三浦彩、横井由実、近藤大輔、堀内桂、中井一彰、今田御洋子、伊藤千鶴.
日本職業・災害医学会会誌. 67(6): 574-550, 2019
(28)切迫流産・切迫早産の発生率と就労との関係に関する検討
宮内文久.
日本職業・災害医学会会誌. 68(1): 46-49, 2020
(29)毛髪に含まれるコルチゾール濃度を指標とした3交代勤務と2交代勤務のストレス度の比較
宮内文久.
日本職業・災害医学学会誌. 68(1): 71-76, 2020